カテゴリー「■y3. 住宅のアプローチと風景の関わり」の9件の記事

2012.09.08

■ 住宅のアプローチ・構えの風景との関わり-最終回

さて、長々とお伝えしてきましたが、感覚として言いたかったことは・・・

 

 

● 難しい話は不要?

 

もともと私は、論理的思考をあまりしない人間であります。勿論今でもそうです。
お薦めはできませんが・・・笑。理論的思考から導き出される解よりも、直感的に描き上げる手業のような感覚を信じ、それを尊重することが多いように思います。“直感的に良いと思った何か”に感心があるからでしょう。

 

そして、全てを説明できる必要は無いのではないか、上手く説明出来ないことを、説明出来ないままにしておくことも、また躍動的で味わい深いことであると、思うようになったのです。そこにこそ深み・広がりがあるのではないかと。

 


学術的あるいは文化的評価はあまり関係ない(?)、とも言えるのではないか。
感じたままでいいのではないか。
皆さんが感動したもの、そこに必ず価値がある。

 

 

 

● 目立たないところに、価値が眠っている

あるツアーで、奈良県吉野町に見学に行った際、金峯山寺蔵王堂という建物を拝見し、結構感動したのです。
こんなお寺が有ったのですか!!という驚きです。
多種多様な文化が混じり合った、いいようもなく力強い建物だったのです。
エネルギッシュで、大胆且つ繊細、気品があり、人間的、ここなら逝ける・・・と、意味もなく呟いてしまう包容力。
説明しなさいと言われれば、インドのような、中国のようなアジアの要素があり、間違いなく日本の建物。
・・・と言えるかどうかも良く分からない。笑。
しか~し、とにかく凄い建物だということは間違いない。

 

多分こういう事なのではないかと感じました。
歴史的建造物とは「その時代の様式が、分かりやすく特徴的に表されている建物」ということであって、多種多様な文化が混在した非常に人間的で親しみやすく感動的な建物が取り上げられるとは限らない、ということなのではないかと。
しかしむしろ、そういうことのほうが、人々の共感を得られる可能性が有る。

 

● 直感的感動 を教えて下さい

 

論文を書くには、論文という形式に則らなくてはならなかったり、なにかしらの結論を導き出さなくてはならなかったりします。
理論的思考をあまりしない私が “描いた”論文図絵は、はたして論文といえる物だったのだろうか、今でも疑問ではあります。

 

風景との出会いの感動から始まり、1年程通った集落を題材にした論文の発表では、理論的に論述することよりも、簡単な話、風景の写真をスライドショーとして延々と皆さんに見せたいくらいでありました。

 

「こ~んな!!風景なんです、いいでしょう!
もし興味を持って頂けたなら、後で論文読んでおいて下さいね~」
みたいな感じで進めても良いと、思ったものです。

 

事物を解明する上での理論は必要なことだけれど、冷静に客観的に解明したことによって、感動の温度が下がってしまうのなら、それはモッタイナイことだと思いました。
「理論や結果」よりも、「感動の温度」が大事かもしれない。
10数年前の自戒を込めて。

 

結論の出ない話を考え続けるのは、結構好きである。
だから面白いし、延々と取り組める楽しさがある。(悩ましさもある。)

 

感動を、感動したまま伝える手段や場が有れば、
その方が面白いし、伝わるのではないだろうか、と思うのです。

皆さんの、直感的な感動を是非、教えて下さい。

有り難うございました。

 

追伸.

誠に正直な気持ちで書いておりますが故に
ちょっとこっぱずかしく躊躇していましたが、
途中までお知らせしていたので、
最期までお知らせすることに致します。

 

長いこと引っかかっていたことを再構成し、
幾分スッキリした気持ちではあります。

 

何かが出来たわけでは無いのですが、
最期までポジティブにとらえ直したことは
私の中で一歩前進。

 





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2012.06.29

■ 住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第7回

さて、最期の事例紹介です。
スケールの大きな、景観的アプローチをご紹介します。

■ 事例8

 

アプローチのスケールを風景全体にまで広げた例です。
(勝手にそう思っているだけかもしれないのですが)

0801_510

 

0802510_2

遠くから見た様子は、鎮守の森を背後に控えた仁王門・鳥居のようです。

一度その姿に目が留まると、人は、道を右に左に振れながらも、
視線はずっとその姿を追ってしまうのではないでしょうか。

 

木立の間から、雪を頂く駒ヶ岳の勇姿を、目で追い続けてしまうように。

0803380

この家は、北側の山裾の窪地に「袋」状にはまり込んでいる、
「日影さん」とご近所さんから呼ばれる方の家です。
今までご紹介して来た立地形式に当てはまらないので、
なぜここに在り、北側を向いているのか、
不思議に思いながら、地図を見ていると、あることに気が付いたのです。
これは予想なのですが、この家は「地理風水」を取り入れているのではないかということです。

0804510

その地理風水とは、山脈のエネルギーは「地龍」となって尾根伝いに走り、その山脈が地中に潜り込む寸前の所に「穴(けつ)」と呼ばれる窪地(気の溜まり)が在るのだというもの。
その窪みにエネルギーが溜まるというわけなのですが、それを守る「護砂」と呼ばれる山脈が左右を囲み、「前面に川が流れている」場所が、建物を建てる場所として最も良い場所であるという内容です。

航空写真を見てみると、なんと、ほとんどバッチリのように見えます。
このお宅が、鎌倉から来られた方で、文化財に指定されている観音像を所有されているという事実も、その考えを裏付けているような気がしています。
(気がしているだけかもしれないのですが)

 

北側を向いていることだけが気になっていたのですが、
第2回でお話しした、
屋根が茅葺きの時代には、防風を優先して山の北側の裾に家を建てるのが一般的だった、ということが関係しているのではないかということで、納得。
日当たりよりも、地勢を優先した事例と言えるのではないでしょうか。

 

風水的に良い場所や、水利や防御との関係の中で合理的に考えられたものは、
同時に「見栄え」も良いということは、やはり驚きなのであります。

以上で、詳細な事例紹介はこれで最期となりますが、
その他の事例を含めて、類型集としてまとめてみました。

■ アプローチの類型

 

第1回の写真集に登場する事例や、
その他の事例を、配置図でご紹介します。

0805510_4

 


いかがでしたでしょうか?
お伝えしたいことは他にも有りますが、
次回、そろそろまとめに入りたいと思います!

 







●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり プロローグ
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第1回
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第2回
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第3回
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第4回
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第5回
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第6回
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第7回 ←今ここ
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 最終回 





 

 

 


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2012.05.01

■ 住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第6回

<月刊杉79号掲載分>

 

 

 

 

引き続き事例紹介です。
今回から、様々なアプローチ形状の中から、
印象的な事例をピックアップしていきます。

 

■ 事例5

 

この敷地形状は少し変わったタイプで、特殊解です。
敷地内の道行きに趣があるのでピックアップしました。
じょうぼが長屋門を抜け、敷地の内部にも続いているというもの。
実はこのように敷地の内部に植栽を植えるようになったのは、
昭和30年頃にモミの乾燥機が普及し始めてからなのだそうです。
これについては後述するかもしれません。

 

0701_510

 

■ 事例6

 

窪みの一番奥に位置し、その中央をアプローチするタイプ。
材木屋さんというだけに、立派です。
長い道行きを、僅かしか横に振らないことによる、景色の移り変わりは、
なかなかのものです。
どの物件にも共通していることなのですが、この微妙なさじ加減が、
非常に憎いというか、趣感をアップさせるのですよね。

 

0702_510

 

■ 事例7

 

ひじょ〜に趣のある、アプローチ風景。
アプローチだけでここまで魅せるなんて素晴らしい。
蛇行したじょうぼを持つが、手前が下がっているために中腹が膨らんで見え、小道がS字を描いていることは、膨らみを超えなければわからない。そこがまたドラマチックなのです。

 

右に振られ、左に振られしながら、小道の曲線形状と、長屋門、それらを囲んでいる田畑や風景とのコラボレーションを楽しむ空間。

 

アプローチは、山裾を歩く旅なのだな〜と気付かされる好例です。

 

0703_510

さて次回は最期の事例、スケールの大きなアプローチをご紹介します。






●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり プロローグ
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第1回
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第2回
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第3回
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第4回
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第5回
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●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第7回
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 最終回 






 

 


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2012.04.11

■ 住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第5回

<月刊杉78号掲載分>


引き続き数回に渡って、事例を一つ一つご紹介していきます。

 

 

■ 事例2

 

山を削って防風に利用しつつ、削った崖に沿うようにアプローチが曲線を描く例です。
風景の中にある民家の屋根は、シンプルな美しさを持ち、力強く、
来客はアプローチを歩く間ずっと、母屋の屋根を目で追うのではないかと考えられます。

 

全ての家に言えることなのですが、大きな屋根と軒先が見えるように残し、開口や壁は上手い具合に隠して、屋根と軒先がシンボリックに浮かび上がるように工夫されています。
防風に対応する関係性なのか、見栄えによるものなのか、その両方なのか。
「機能」と「見栄え」が、分かちがたく関係し合い、
もうそれだけで「いいな〜」と、ニンマリ・・・なのであります。

 

この家は、植木屋さんのお宅というだけあって、庭に植えてある木々の量が多く、まるで庭園のような趣となっています。

 

0601_510

 

この家では、耕耘機が導入した際、現在の辰巳(南東)の方向のアプローチの斜面が急で、雨の日など滑るため、アプローチの途中から西に迂回するように形を変えたところ、家相に詳しい知り合いが「式台玄関の換えを横切って、土間の通用口に向かうじょうぼは良くない」と言って、魔よけのエンジの木を植えていった。といことも有って、元のじょうぼに戻したそうです。じょうぼをつくる上での家相の影響が分かる一例です。

 

■ 事例3

 

緩やかな傾斜を登りながら、畑を迂回していくアプローチです。
奥行き方向に、すこ〜しだけ盛りあがる形態、絶妙な曲がり具合。
偶然なのか、意図したものなのか。
もうこれだけで、唸ってしまうのです。

 

ストライプ状に並んだ畑のうねには、様々な作物が植えられ、
道行く人の目を楽しませてくれます。
季節毎の作物・草花を近景として楽しめるだけでなく。アプローチを進みながら、
現れては消えていく植物と建物のコラボレーションを楽しむことも出来ます。

 

「全部似たような写真じゃないか」なんて言わないで下さいね。
見え方のびみょ〜な変化が、一つ一つ絵になるんですよね!

 

撮影している最中は「ここも。あ、ここもいい!」なんて思いながら撮りまくり、
写真が現像されてみると、全体的にはそれほど違わない写真が多数・・・。
と言うことになるのですが、本当はそれぞれの写真で、微妙な違いがあるのです!
現場で体験する楽しさが伝わりづらいのは、非常に残念であります。
これはもう、実際に体験して頂くしかない。

 

0602_510

 

この家の東側には、杉の木が整然と植えられており、建て替えのための建材を敷地内で育てているそうです。また、北東側には、横井戸から引いた地下水を溜める大きな池もあります。

 

■ 事例4

 

前回の記事で、S字カーブのパターンで登場した「迂回型」のアプローチです。

 

「迂回型」は一度遠景としてバーンと母屋を含む敷地全体の風景を眺め、大きくゆっくり脇へと振り、母屋に到達する期待感を胸に抱きつつ、坂道の道行きを楽しむ感じなのです。

 

手前には蓮池が有り、ハスの花が咲く季節には、遠景はもう最高なのでしょうね〜。
眩いばかりのハスの花たちの向こう岸に、我が家が見えている訳ですから。
また、家の後ろの斜面には、数多くの果樹(柿・柚・梅)が植えられています。

 

0603a_510

 

この地域で見られるハスの花はこのような感じです。
どうでしょう? もう、気分は浄土ですね。

 

0603b_510

以上のように、「遠景」と「近景」を両方活かしているところがポイントなのでしょうね。
遠くから、母屋のある風景を見たり、近くの草花を愛でたり・・・。
ご近所さんがアプローチを登っている間に、話題を見つける切っ掛けにもなるでしょう。
視野は広く、季節感があり、奥深く、楽しいアプローチです。

 

さて次回は、これらとは少し違ったアプローチ形態の事例をご紹介します。



●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり プロローグ
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第1回
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●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第7回
●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 最終回 

 

 

 



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2012.03.10

■ 住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第4回

● “絵”で分析しようという試み

 

今回は、空間を「視覚的・感覚的」に“絵”を使って分析してみましょう!
というものなので、もうすこしとっつきやすいのではないかなぁと思います。

 

サーベイによる事実の研究・蓄積はあくまでベースであり、
その先にある「視覚・感覚」の分析が実は意味のあることなのかもしれない。
と、後になって感じています。

 

なぜなら、美しいとか、何かを愛でる感情は、理論ではなく、感覚的で曖昧なものだと思うからです。「分析してみたけれど、ハッキリとはわからなかった。でも、きっとこういうことなんじゃないだろうか〜」という推測・妄想で盛り上がる方が、ロマンがあって楽しいのではなかろうと思うのです。

 

● 無意識って素晴らしい

 

見えやすい事実はシンプルでも、その奥には様々な無意識が潜んでいる。
大枠の構造がシンプルなのに、なぜ色々と多様で面白く、美しいのだろうかという疑問が沸いてくる。そこに気付いてみると、ジワジワと面白くなってくるのです。

 

私はそこに気付くのに10年以上かかりました。鈍いな〜。いや〜長かった。
重要なのは、事実の研究ではなく、その結果がどうこうではなく、
感覚だ、パッションだ〜と思うに至ったわけなのです。

 

何かを感じて作る・動く、その奥には、知らず知らずに無意識が作用している。
その無意識の可能性が素晴らしいのではないかと。

 

ならば、その無意識に働きかけるには?
その無意識を磨くには?

 

そこを皆さんにも考えて頂きたいのです。

 

●「旅」を感じるアプローチ

 

このアプローチ空間に込められたものが何だったのかということについて、結論として私が感じたことは、「旅」だったのではないかと思うのです。

 

山間のアプローチ空間は、母屋へと向かう道すがら、現れては消える様々な物との取り合わせを楽しむ空間と言えると思います。

 

それって「旅路」そのものではないだろうか!

 

山間の起伏や木々の中を旅する際の体験。つまり、
薄暗い森を抜け、日の当たる小径へと進むときや、
峠を越えたとき、あるいは
膨らみを一つ曲がったときなどの風景の広がり、空間の展開、
視界が遮られては開けることの連続、
道端の木々や草花を立ち止まって眺めるというような、旅の進行と休息を、
植木や門や地形を工夫し、組み合わせて造られているのではないかと思うのです。

 

● 視覚的、感覚的分析

 

では、いよいよ“絵”による分析の始まりです。

 

■ 基本的空間効果

 

だいたいの空間展開は以下の4つの効果に分解出来るのではないかということで、
「基本的空間効果」と呼ぶことにします。

 

0501_510

■ 複合的空間効果

 

次に、アプローチを演出している16の要素をまとめてみました。これらは実例を元にしたもので、先にあげた4つの基本的空間効果とその他の空間効果が組み合わさって成立していることが多いため「複合的空間効果」と呼ぶことにします。

 

我ながら、ま〜良く描いたものです。(笑)

 

0502_510

 

■ 事例1

 

最初の事例ですが、わりと短い距離でアプローチがS字を描いているもので、上で取り上げた4つの基本的空間効果を全て持っています。

 

0503_510

■ 魔のS字カーブ

 

S字カーブを分解すると、「窪み」と「膨らみ」の二つの要素に分解できます。
その道すがら、様々なアイストップ・木々のトンネルを設ければ、もう、いくらでも楽しめてしまうというわけです。道草食っちゃってなかなか家にたどり着かない・・・。なんて。
カメラを構え、一歩進む毎にシャッターを押しまくることになるのは、私だけでは無いはず!

 

0504_510

 

■ S字カーブは 「チラリズム型」 or 「迂回型」

 

S字カーブの活用法は大きく2種類あります。
「チラリズム型」か「迂回型」です。

 

「チラリズム型」は、視線の先にいつも母屋を見据えながら、右に振れたり左に振れたり、何か越しに見たりと・・・そりゃもう相当楽しめますよ。

 

「迂回型」は一度遠景としてバーンと母屋を含む敷地全体の風景を眺め、大きくゆっくり脇へと振り、母屋に到達する期待感を胸に抱きつつ、坂道の道行きを楽しむ感じなのです。「チラリズム型」の粋な刺激と比較すると、雄大・平穏な感じがします。

 

どちらもそれぞれ味わい深いのです。

 

0505_510

 

※ 論文とは大分趣向を変えてお伝えしております。



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2012.02.17

■ 住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第3回

● なぜ、このようなことを書いているの?

 

次へと進む前に・・・

 

今回は、何でまたこのような、特定の限られた地域の観察について、月刊杉に掲載させて頂いているのか、ということについてお伝えしたいと思います。

 

● 特定地域の観察から、思いは全国へ

 

ここでは、私が最初にこのような風景を知るきっかけとなった、千葉県の風景を観察していますが、日本全国それぞれの地域に、独自の風景・景観構造が形成されていると考えられるのです。
先ず、そういうハッとするような風景が身近に存在するということ、
そして、観察してみると面白いということ、
そして単純に、風景が 気持ちいい~!!(微笑)
ということを、“よそ者”としてお伝えしたかったからなのです。

 

風景や景観は、人々の生活とも密接な関わりが有る、と私は思います。
人は、知らず知らずのうちに、身の回りの風景から元気をもらっていると思うのです。

 

日本全国に住む方々が、周辺地域の隠れた魅力、
特色を見つけることの面白さを見いだして欲しいと思います。
そんなことを少しでも伝えられたらと、全国にネットワークを持つ月刊杉に掲載して頂いたわけなのです。

 

● 地域ごとの多様な歴史・見えにくいものの良さを見つけ、磨き上げる時

 

本コラムでは、「建築・外構・風景」は、ワンセットとして観察しています。
建築・外構・風景の全体を一つの総合的な文化として見たとき、次のことが分かってきます。

 

★★ 1. 地形が違えばその数だけの、地形に合わせた工夫・風景・景観構造が存在するということ。

 

★★ 2. 地形は似ていても、交易などの歴史まで含めると、全く同じ条件は揃いようがなく、従って、その地域にしか無い独自のものが必ず存在するということです。

 

多様な文化の存在が、面白いのだと思います。
地域ごとの文化の違いは、財産であり、資源と言うこともできます。
その存在を意識し、現代感覚を注入し・伝統とコラボレーションして
現代に活かし、持続させて欲しいと思います。

 

これからの時代は、「保存」よりも、現代に「活かす」ことが有効であると考えています。
伝統的なものが、節度を保ちつつ、現代に違和感無く活かされるような、
今までに無い、全く新しい仕組み・循環を、それぞれの地域の方に考えて頂ければと思っています。

 

伝統とは、変化の歴史ではないでしょうか。
伝統と現代のコラボレーションが、新たな伝統をつくり出します。
ですから、伝統とは、常に現在・現代のことを表していると言えます。

 

それぞれの文化に気づき、誇りを持ち、磨き上げれば、
もっと気持ちのいい関係が生まれるのではないか~と思っています。

 

 

 

■ 関連記事 
宜しければ、こちらもご覧ください。

 

・風土と現代のはざまで <その1>

・風土と現代のはざまで <その2>

・風土と現代のはざまで <その3>

・地方の楽しみ方





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2012.01.11

■ 住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第2回

風景と家との理想的(?)な関係

 

 私が当時の限られた経験の中で知っていた農家の構えというものは、道路に直接接し、背の高い屋敷林で囲まれ、田畑の中に点在している。アプローチは屋敷林の一角に開いた隙間から、母屋の入口が少し見えている。というものだった。(下図1.)
 それに対して、私がここで見た家々は、母屋を背の高い屋敷林で隠すのではなく、アプローチのための空間というものが用意されているように思えたのである。
 各家は山を背にして山裾に位置するのだが、母屋は道路から距離を取り、斜面には季節季節の花や作物、植木が植えてある。そして、その緩い斜面の中を、小道がS字を描いて走っている。どの家も、それぞれ工夫して、自らの家のアプローチを美しく見せようとしている。
 家の正面の斜面に植えられた木々は軒下をいくらか隠す程度の高さで、農家の母屋のどっしりとして大きな屋根が、隠れること無く姿を現している。(下図2.)
 斜面を上がる前庭のアプローチ空間と、深く大きな母屋の屋根と、後ろに控える山が一続きになって「家のある風景」と言えるようなものをつくり出している。ここでは、建築は異物とはなっていない、かといって、隠れているわけでもない。人間の住みかを表すどっしりとした母屋の屋根や長屋門が、その存在を示しつつも、風景の中にひと続きになっている。ここに、人間の営みの拠点である建築と自然の理想的な関係を見たような気がしたのである。

 

Haikei001_510

Haikei002_510
事例1.遠景

Haikei003_510
事例1.近景

 

Haikei004_510
事例2.遠景

Haikei005_510
事例2.近景

 

この「家のある風景」・「アプローチのための空間」を目にした理由は何であったのだろうか。
そのきっかけからまず考えてみることにする。

 

● 1. 屋敷林が低く抑えられている
屋敷林が低くて済むのは、山間では周囲の山自体が、ある程度防風の役目を果たすからである。しかし、たとえ山間でも、谷津の幅が広く、向かい側の山が離れているところでは、風の影響を受けやすくなるためか若干屋敷林が高くなり、建築が自然の中に隠れてしまう。したがって、後に述べるが、「アプローチ空間と、深く大きな母屋の屋根と、後ろに控える山が一続きになっている風景」は、風の影響が少ない、山と山の間が比較的狭い場所でよく見られる(下写真)。

 

Haikei006_510
比較的狭い幅100m以下の谷の風景

 

 

 

●2. 道路と母屋との間に距離が取られている
母屋から距離を置くことによって、「山裾にどっしりと建つ家」として、一度離れて家を眺める機会が与えられる。そして、上で述べたように家は完全に隠されることなく姿を見せているから、この山間では「家のある風景」を見ることができるのである。

 

● 3. 家が山の斜面のいくらか高いところに建っている。
斜面の高い位置にあれば、より遠くからでも見える。家の前に多少木を構えても、高低差があるために家を隠してしまうことはないから、演出されたアプローチ空間と家と後方の山を同時に見ることができる。

 

以上3つの要因が重なったことが。この風景を景観的なものにしている要因であると考えられる。では、

 

疑問① なぜ山裾のいくらか高い位置に家を構えるのだろうか
疑問② なぜ母屋と道路の間に距離を取るのだろうか
疑問③ なぜみなS字を描いているのだろうか

 

この3つの疑問を解くことと、そのアプローチ空間の演出方法について分析、または考察を行っていく。

 

斜面を利用したアプローチ空間の成因分析

 

日本の文化は、迂回したその道筋を進む過程に意味を見いだそうとする傾向があり、聖なるものは隠され無数の回り道をしなければそこに到達できないと言う特徴があると言われている。
 はたして、そういった文化が、千葉の山間の一般的農村の各農家で意識的に行われているのだろうか。私は、そういったアプローチ空間の成因に、次の三つのような答えを期待して調査を始めた。

 

1・アプローチ路を長く取り、家を道路より高くすること自体に美学があった
2・そういった空間を持つことが一つのステータスにつながっていた
3・お寺や神社の参道をまね、家というものに精神的なものを求めていた

 

しかし、調査を進めて行く内に、その成因は、第一に地形的な対応によっていることが分かったのである。後にそれらの空間が豊かさを表すようになったとしても、はじめから豊かさを目的として生まれたと言うよりは、地形との対応から生まれたものに、美しさを見いだし、美しく見えるよう工夫してきたということのようだ。

 

 確かに、その裏には上(かみ)一下(しも)、奥一手前というような感覚が無かったとは言いきれないが、それは後からついてきたことのように思う。山がなければ上も下もないし。谷がなければ手前も奥もない訳で。自然との対応の中で、水利・日射・防御などを総合的に判断して立地した家屋を、それぞれが見栄えよく工夫し、その風景が視覚的にも豊かさつながってきた、と考えられるのである。

 

この章では、斜面を利用したアプローチ空間の成因として、1.歴史的背景、2・地理的背景、3・社会的背景、4・家相的背景、5.心理的背景の五つの背景について述べていく。

 



1−1歴史的背景

古代では人々は台地の上に生活し、稲作を営むようになってから低地の近くに住居を構えるようになった。治水していない平地では、大雨が降れば水浸しになり、嵐が来れば暴風と洪水の危険性があった。昔は、そういう意味で山間の谷津(やつ)のほうが気候が安定しているため、また、粘土質の谷津田の米の方が、砂質の平地で採れる米よりもおいしかったということもあって、人々は、まず山間の谷津に水田を求め、山裾の斜面に家を建てたという。

 

1−2地理的背景

 

1.水はけ、地盤を考慮
水はけを良くするために1.5mほど敷地を高くする。また、盛り土ではなく、山を削った上に載せると地盤が強いため山裾へ建てる。しかし、それだけでは斜面の高い位置に家を建てる必要性を十分説明できない。

 

2.農地を、より条件の良いところへ
農村では、農作物が最も大切なものであるから、それを使先させ、家などは多少日当たりが悪いところでも良いということである。
 谷津といわれる土地(「5.分布」を参照)は、平地のようにいくらでも田畑を広げられるというわけにはいかず谷の底辺に最大限に水田を取った。さらに、畑での自給自足用の農作物が水はけの良い、水田より少し高い位置に必要になる。そして、母屋より日当たりが良い家の前の斜面に来ることになり、家屋はその後ろの高い位置に来る。したがって道路と母屋の間に距離が生じ畑を迂回して山裾に沿って歩く道が曲線を描く「じょうぼ」になる。

 

Haikei007_510

 

3.山裾の水を求めて
豊富で安定した山の水を求めて山裾へ家が建つ。
谷津の一番奥には必ず貯水池があり、そこから各農家の水田に、上から順々に水を引いていたが、それは限られた水にすぎず、谷全体に行き渡らせることなどできなかった、そこで潅漑用水として各家が山の斜面の横井戸から水を確保することが重要であったからである。「上総堀り」という技術が普及してからは、深い縦井戸も掘ることができたが、それ以前には、山間では山の斜面ということを利用して横井戸(下写真)を掘って水を得ていた。下に掘り抜かなくても、横に掘り進めば山の上方から浸透した水がそこに溜まる。その横井戸をいくらか高い位置に取れば、高低差を利用して自然に水が吹き出させることもできる。手動ポンプを用いて縦井戸の地下水を上の横穴に引き上げて、給水棟として使うこともできた(写真3)。また、腰の高さに横井戸を掘れば、しやがみ込まなくても水を使うことができた(写真2)。横穴を30間も掘って、潅漑用水にしている家もある。
 また、家の横に小さな池(写真1)を持つ家が多いのだが、それらは、横井戸から常に水が供給されている。中には池の下を横に掘り込み、実際に地表から見える池の倍の体積の水をためている弛もある。これらは、防火用水や、観賞用の池として使われている。
 このように山の斜面に建てる原因として、水はかなりの比重を占めていたと考えられる。
 また、このあたりでは、横穴を掘って養蚕時の桑の葉の保存倉庫として、堆肥を発酵させる場所として、天然の冷蔵庫として、防空壕として、また古墳として使っていた(写真5)。山はなんと利用価値が高く、尊いものだっただろう。

 

Haikei008_510
横井戸、横穴の有効利用

 

4.日差しを考慮
稲作農家では収穫後の米(もみ)を庭に干す必妻があった、しかし山間では、日が遅く上り早く沈み、さらに狭い谷の地形では前方の山が日射を遮るため、冬などに日照時間を長くするために、家は斜面の高い位置に設置される。
 また、朝日が早く昇ること自体、有り難いことであった。
 しかし、すべての農家が日当たりを最優先しているわけでもない。作物の日当たりを最優先したり、風との対応や、景観的な見栄えを最優先して山の北側の裾に家を構える農家もある。家屋の屋根が茅葺きだった頃は、人々は嵐の時に屋根を持って行かれるのを防ぐために、防風を優先して山の北斜面の裾に家を構えていたが、農地解放や兼業化によって経済的に余裕が出てくるにしたがって、反対側の甫斜面に移ってきたのだという。北斜面にあった家では干し場を母屋から離れた日当たりの良い所(多くは、谷を横切るあぜ道状のじょうぼ)に設けていた。

 

5. 分布

 

谷津(やつ)とは
 ここで、谷津(やつ)という地形を説明しておく。なぜかというと、調査を進めていくうちに、山間の農家でも、本論文で取り上げようとしているアプローチの形式、つまり、斜面の多少高い位置に家を構えるものは、この地形に多く見ることができることが分かったからである。

 

Haikei009_510

 

 千葉南東部には一宮川が流れており、その流域には木のような形を描いて、多くの細かい谷がひだのように無数に広がっている。大枝には川と開けた水田、小枝には谷、小枝につく葉のように民家が分布している。小枝のように連なる谷の奥には必ず貯水池があり、そこから水を引いて稲作業を営んでいる。
 ひだのように連なる谷のある地形はこの地域特有のものであるが、このようなアプローチの形式がここだけだとは言えない。低い山を背にした住居形式は千葉県全体に見られることのようであるし、同じような地形をもつ地域なら全国に存在すると考えられる。
 では、その地形の特徴とはどのようなものだろうか、前にも述べたように、狭い谷でなければ、斜面の中腹の高い位置に住居を構える必要性は必ずしも無く、田よりいくらか高いにすぎない。標高が高い急な山であれば、山の斜面方向にアプローチを展開するのは困難だろう。
 必要条件は、山はそれほど険しくなく、谷地形に、田畑と人の往来のある平地が設けられるだけの広さがある場所と考えられる。山と平地が混じり合うところ、山間でもあまり海抜の高くないところでこのような地形ができると考えられる。このあたりも水田のある平場は海抜20~35m程度で山の高さは海抜50~70m、わりと高い平場35~50mの所で山の高さは海抜70~110mである。平場から見える山の相対的な高さはそれぞれ30~35m、35~60mくらいのものである。これは山脈の最も高い位置との差であるから、平均はこれよりも低いわけである。このぐらいの海抜であれば、谷はそれほど深くなく平場ができやすいと考えられる。これ以上高いところでは谷が深くなり平地をとることが難しくなる。
 また、山が高く斜面が急になると、斜面が崩れる危険性が出てくる。
 したがって、本論文で調査を行った地域は、山の斜面を利用したアプローチの生まれやすい地形と言えるだろう。

 

Haikei010_510

・南向き、南東向きの脊に多く分布
どの谷にも等しく分布するわけではなく、南向き・南東向きの斜面を持つ谷に多く分布し、谷が連続する地域に集中している。この同じような南東向きの谷が連続したことにより、同じような構えを持った農家を出現させる要因となり、それによって地形との対応の知恵を高めることに役立ったのではないだろうか。いいものを見たら、自分の土地でも試してみることができるのだから。

 

・広い谷より狭い谷に多く分布
水田があって、両端に山の斜面があれば必ず斜面方向に展開したじょうぼができるとは限らず、広い谷に、疎に点在している場所よりも、幅100m以下の谷に斜面方向にじょうぼを展開した民家が集まる。
 第一の要因として、広い谷では農地が充分にとれ、日射を遮る山もないわけだから、民家を斜面にわざわざ上げなくても少しだけ上がっていればそれで用が足りたが、狭い谷では農地は平地に最大限に取られ、家は斜面の上に上がる。
 第二の要因として、土地が充分にあれば、畑を母屋の横、つまり斜面の同じレベルに水平方向に畑を設けることもできるが、家屋が集まれば、斜面方向に家を展開することになるからである。

 

 また、幅の狭い谷ほど手入れが行き届いた美しい物が見られる。これは、自分の住む谷、自分の家の目の前の田畑、その風景全体が自分のものだと感じられる広さだからではないかと筆者は考えている。また、人が多く集まることで、自分の家を飾る意識が高まるからではないかと考えられる。

 

Haikei011_510
幅100m程度の谷の風景

 

6. 地形との対応

 

前ページの図のように、谷の側面には、少し高くなった窪みが連続し、そこに畑や民家が主に立地する。防風や日射をどのように地形と対応させるかによっていくつかのタイプがあり、1章の冒頭にあげたタイプのじょうぼは、そのうちのケース1(下図)であることが分かった。

 

Haikei012_510

 

● ケース1.窪地に畑や田圃を取りその後ろに家を構える。家までの山据を歩く道がじょうぼとなる。田畑を迂回せずに、直線的に窪地の中央をじょうぼが通る場合もある。

 

●ケース2.窪地ではなく、山ひだの膨らんだ部分を、冬季に風が来る方向(北西~北東)を防風用に残して削り取り、削られた東の崖の下がじょうぼとなる。この場合、畑は隣の窪地に設けられている。

 

Haikei013_510

 

●ケース3.北側の山裾の敷地では、谷を横切って、向かい側の窪地にある家まで伸びるあぜ道がじょうぼとなる。山の北裾の窪地に建つ家は、日当たりが悪くならないように山から距離を置くため、家は斜面上には建たない。その代わりに別の「景観構造」が当てはめられる。それは、土地を「袋」にし、山に囲まれること。遠景としての山。長いアプローチ路である。その両脇に花や背の低い木が植えられる。

 

●ケース4.母屋は辰己を向くため、裏をかくし、母屋の正面まで回り込むじょうぼである。タイプ2と同様に山ひだを防風に利用しつつ、窪地の入り口付近に建てることで、午後の日射は確保している。

 

●ケース5.谷がほぼ南北方向に走り、その東の裾あるいは西の裾に建つ場合、納屋と母屋の間を二つに分けるようにアプローチする。突き当たった場所にアイストップとしてこんもりと木々が植えられる。

 

1−3 社会的背景

 

地域のなかで影響力のある者が、より高いところに家を構える傾向があることは言えるようである。この地域でも、谷に一番先に家を建てたものや、醤油や酒をつくっている農家が谷の一番奥の、あるいは窪みの奥の、したがって高いところに家を構えるという傾向が見られる。しかし、敷地の高さが直接ステータスにつながるとは言えない。
 山間で一等地に当たる場所は、谷の一番奥や、山にUの字に囲まれた窪地とのことである。それらは、水が豊富に得られる場所で、しかも山ひだの窪地に袋状にはまりこんで、景観として山と一体になり、見栄えがよいからだと考えられる。1-2の3「山裾の水を求めて」でも述べたように、力を持ったものが水を管理することができた。したがって、山間でのステータスは、直接敷地が高いことではなく、水の多く得られる土地で、山を後ろに控え、U字に囲まれて、山と一体となることであると考えられる。この形式を人々は「袋:ふくろ」と呼んでいる。防御にも有利と考えられる。

 

Haikei014_380
山の窪地にUの字にはまりこみ、山と一体となった風景。
水も得易く防風にも良い。

1−4 家相的背景

 

・すべてにおいて辰巳が優先される
辰巳(たつみ)=巽=南東=お天道棟の上る方向である。西とは斜陽を意味し、西に玄関があると将来うまく行かないと考えられ、通用口は東寄りに取られる。
 また、北東(表鬼門)から南西(裏鬼門)への対角線は神様の通り道であるから、そこにはじょうぼ口を設けず、辰己の方向から入るものがより良いとされる。南西にじょうぼが抜けていたら、衰鬼門からやってきた神様が素通りしていってしまうからだろう。そこで、どちら側に道路があっても、客間や、なかの間などを隠して、辰巳の方向まで回り込む必要が生じ、結果的にアプローチは長くなり、そこに木々が植えられ、みばえ良く「見せつつ隠す」空間となったと考えられる。しかし、これはあまり厳密でなく、どのような地形を選んだかによっては、道路が西にあれば、平面プランを東西方向に反転し、便利なように土間を西に置き、式台玄関を「奥」に取り、じょうぼが西から入るものもある。ある地形の中では、それが正しい(自然)ということもある。例えばじょうぼの形には下の写真の様にHaikei015_moji_3という形が見られる。一見奥行きを深く取り隠しつつ演出しているように見えるのだが、それを目的としてつくられたわけでもなく、かといって防御のためというわけでもないようだ。農村では、すべてが朝日の昇る方向:辰己を重視するのである。このタイプは西に道路があり南東に入口をとれない家で、じょうぼを長くとり、改めて南東からは入り直すのである。あるいは、玄関が巽方向を重視しているため、客間や、なかの間などを隠して入るという言い方もできる。
 なぜそう言えるかというと、外房の九十九里海岸の南端に近い平地で採集したものであるが、道の向かい側つまり、道路のある方向が東から南東方向の場合には、じょうぼを鍵状に取る家はなく、すべて道からすんなりと短く入っているからである。(Haikei016_moji_2

 

Haikei017_245 Haikei018_245_2
南東まで回り込むアプローチ

 

・曲がったじょうぽが良いとされる
直線的に玄関まで到達するじょうぼより、曲がったもののほうが良いと言われている。じょうほが直線の場合でも必ず玄関から少しずらした所に到達するようにしてある。これは、不幸が入りにくいように、幸福が出ていかないようにとの願いからである。
 また、曲がったものを良しとする感覚がやはりあるようだ。植木は、まっすぐよりも曲がっていたほうが好まれるそうである。

 

・登りじょうぽが良いとされる
将来登り調子にうまく行くという願いからだ。
 また、地形的にも水はけを考えると、母屋は高い位置にあった方がよく、したがって登りじょうぼが良いことになる。

 

1−5 心理的背景
これまでは、地形や水や風との対応という実用的な側面から、家が山の斜面に建てられる原因を述べてきたわけであるが、もっと単純に、基本的な心理的要因として、「高いところは気持ち良い」という感覚が働いていることは間違いのないことではないだろうか。それはなぜかというと、

 

1.視界を遮るものが少なくなり、より遠くまで見える。
2.家の前にある自分の田圃や畑に豊かに実る稲穂や穀物を見渡すことができる。
3.朝日が早く昇り、夕日がいつまでも照らしてくれる。

 

 以上三つは、非常に主観的だが、疑問の余地はないように思う。なぜなら、陽光に輝く黄緑色の一面に広がる稲穂と、背後に控える山の深緑が同時に見える風景はまぶしいばかりに美しいし、秋の澄んだ空気の中、朝や夕に輝く太陽とその逆光に透かされた稲穂は、生きる力を与えられるほどに美しい。人は誰しも見晴らしの良いところに住みたいことは、確かなことだと言えるのではないだろうか。

 

Haikei019_510

 

Haikei020_510

 

以上のように、冒頭に上げたアプローチは、地形との対応などから生まれる、様々なアプローチの中の一つであることが分かった。では、それ以外にどのようなアプローチ空間があるのだろうか。次回は、それらについて分類し類型化を行います。



●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり プロローグ
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2011.11.17

■ 住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 第1回

住宅のアプローチ・構えの風景との関わり
-千葉県中山間農家のアプローチ「じょうぼ」の分析と考察-

 

それでは、始めましょう!
まず始めに、筆者が目にした、家々のアプローチや構え、風景の全体像を写真でご紹介します。
Webなら効果的に伝えられるのではないかと思いましたので。
(編集の皆様、ご協力有り難うございます!)

 

前半は「じょうぼ・構え」の風景、後半は「谷津田・民家・蔵・寺」の風景となっています。
じっくりとご覧下さい。

 

■ じょうぼ・構えの風景

 

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Jobo029_245_2 Jobo030_245

 

「じょうぼ」とは

 

●彰国社の『建築大事典』によれば
「城ぼ」=関東地方の民家において、門などを構えないで塀や垣根をあけているだけの屋敷入り口。「じょう」は入り口の意。とある。

 

●城郭や豪族屋敷の研究をされている九十九里総合文化研究所の伊藤一男氏によれば、
「城圃 (じょうほ)」=門前の小圃(しょうほ)
「小圃 (しょうほ)」=門前を飾るお花畑
=門畠(かどはた)
江戸時代、武士の備えとして、矢来の組める空間、戦争になった場合は臨時の防壁を設けることのできる空間(武者溜まり)を維持するため、平時には畑もしくは花畑、植え込みとして門前を飾る空間とするのが「じょうほ」。武士の真似をするのが一種のステータスだったから、農民の間にも広がり、方言やなまりで「じょうぼ」となったのではないか。と予想されている。

 

Jobo031_150

 

● 沖縄の方言について書かれた『伊波普猷全集 第四巻』によれば
じょう=門・門前の道路・門前通り・往来道から宅地内の門までの小径
じょうぐち・じょうのくち=道路の口・大通りへの出口

 

「じょーくち」「じょうぐち」の分布
    :青森・山形・神奈川・静岡・新潟・鳥取
「じょーぼー」の分布
    :千葉

 

千葉県香取郡
   →ぢゃうぼう=宅地へ出入りする路
千葉県夷隅郡
   →じょーぐち=家の入口
   →じょーぼう=屋敷の入口




 

■ 谷津・民家・蔵・寺の風景

 

Fukei001_510

 

Fukei002_245_2 Fukei003_245

 

Fukei004_245 Fukei005_245

 

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Fukei021_510_2
 

 

Fukei022245_2 Fukei023_245

 

Fukei024_510

 

いかがでしたでしょうか?
どんなところか、イメージできたでしょうか?

 

いよいよ、次回から調査のまとめ・分析を行います。

 

 

 

●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり プロローグ
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●住宅のアプローチ・構えの風景との関わり 最終回 

 




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2011.10.07

■ 住宅のアプローチ・構えの風景との関わり プロローグ


Maruhyoshi600

 

 

月刊杉No.73掲載分

 

■スギダラトレーニング 

 

皆さんこんにちは。
会員番号No.761の大坪和朗です。
建築設計事務所を営みながら、時折スギダライベントに参加しています。

 

今回こちらで短期連載をさせて頂くことになりましたのは、
ここ月刊杉で、皆さんが様々な話を、熱く、暑苦しく、そして楽しそうに展開される様子を拝見し、触発され、「私も暑苦しさなら負けていません!」とばかりに手を挙げたわけでございます。
またそれと同時に、10年ほど寝かせていたある事柄について、楽しく書いてみようか、と思うようになった。そんな気持ちの変化が有ったからなのです。

 

この月間杉という場をお借りして、
もやもやした湿っぽさを、ポジティブな暑苦しさに変換しようという、
私にとっては、ある種トレーニングみたいなものです(笑)。

 

また、大学院時代にサーベイした中で感じ、まとめたことを、本棚に眠らせておくのではなく、皆さんに見て頂くほうが、何かしらの役に立つのではないかと思ったからなのです。

 

様々な感想、ご指摘、お待ちしています。

 

■伝統と現代・風土と現代をトータルに考える

 

伝統・風土 と 現代は、
それぞれ別物として考えるのではなく、
トータルに考えることが必要な時代になってきていると感じています。

 

これは恐らく、
それぞれの時代に、絶えず言われてきたことなのかもしれないのですが、
いよいよ、その時代が訪れている。と言う感覚が私の中には有ります。

 

個人の感覚は、特に意識しなくても、時代とシンクロするものなのではないかと思います。       
ですから、私だけではなく、もしかすると皆さんも感じていることなのではないでしょうか。

 

風景の豊かさ、そこから感じ取る豊かさとは何でしょう。
行く先々で、どこも同じような、便利な街が広がっていることが豊かさなのではなく、
どこに行っても、それぞれ異なる街・風景が広がっていることが豊かさなのだと私は思います。
だからこそ、旅に出たくなる。

 

都市には都市の、
郊外には郊外の、
中山間には中山間の、
自然には自然の、
それぞれ異なる良さが有る。

 

その良さを見つめ直し、それぞれの良さを引き出していく。
そのほうが、楽しいじゃないですか。
それらが全て同じになっては、モッタイナイ。と私は思います。

 

人間は新しさを求める生き物なのだと思います。
しかし、新しさだけでは、安らげない。
そして、人はルーツの上に立つものだと思います。
自分達の来た道、歴史を再確認し、現在に活かし高めていく。
人間という生き物には、それが必要なのだなあと、個人的に実感しているところです。

 

新しい物を求めつつも、
歴史・地域性を大事にする思考を、
広く、そして普通に、持てたらいいなと思います。

 

私がここで観察した事柄は、
小さな、細かいことのように思われるかもしれません。
あるいは、普通のことじゃないかと思われるかもしれません。

 

しかし、それを分析することによって、見えてくることもあるのではないでしょうか。
といって、偉そうに語りたいのでは、決してありません。

 

一人の、小さな存在である(当時の)若者が、ここに何かを感じ、着目した。
このことに、何かしらの意味がある。と言えるのではないだろうか、と思うわけなのです。

 

■アプローチ・構えの風景との関わり
-中山間農家のアプローチ「じょうぼ」の分析と考察-

 

ことの始まりは、他の研究室の民家調査に参加した際、
その町に住む人に、周辺を案内してもらったことがきっかけでした。

 

その方は、無くなりつつある重要文化財級の民家を、
何とか救いたいと大学に調査を依頼してきていたのでした。
一軒の調査の後、他の民家も次々に案内してくれたのですが、
私は、民家そのものの素晴らしさも勿論ですが、それよりも、
民家に至る道筋や、全体の構え、たたずまいの美しさにビックリしたのです。
こんな凄い場所が有るんですか!と、驚きと感動を覚えたのでした。

 

私が見た風景とは、
民家それぞれが、道路から距離を取って幾分高い位置にあり、
母屋までの道筋がS字を描いていた。
その「アプローチ空間」とでも言える空間に木々が植えられ、
それぞれの家が、見栄え良く演出されていたのです。
さらに、後ろに控える低い山と一体となって、どっしりとした、
風景と一体となった演出がされているように感じたのでした。

 

私は、そのような構えの民家は、実際にも、写真の中にも、見たことはありませんでした。

 

なぜ、こんなに趣のある佇まいが連続しているのか、
どんな背景があるのか、どんな思いがあるのか、
それを調べてみたくなったのです。

 

私が最初に見た、アプローチの一例をご紹介します。
さあ、それでは、これらを前にして、
当時のようにコーフンすることから始めたいと思います。
見て下さい、このアプローチの気持ちよいカーブ!
そして場面展開! く〜、にくい!

 



Maru01_380_2

門前の田畑を迂回してS字を描くアプローチ。

Maru02_380_2

右にグッと回り込むアプローチ。道行きを演出する植え込み。

 

Maru03_380_2

 

木々の隙間から見え隠れする母屋の美しい屋根。手前の松の皮肌。

 

Maru04_380_4

 

手前と奥の遠近感、右から左へと振れる。

 

Maru05_380_3

 

右側から木々が覆い被さるアプローチを、更に右へ回り込む。

 

Maru06_380_2

ド〜ン!! と。

どうでしょう? 盛りあがってきましたか? 私だけでしょうか?

 

アプローチから始まり、構え、風景との関わり、庭、間取り、などについて、
歴史的、地理的背景など様々な視点から、分析を行っていきます。

 

ご期待下さい。



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